新刊本『遺体』を読んで

寒いあの日があって、節電の暑い夏が過ぎ、今また寒い季節が巡って
来ている。

新聞によれば、＜今頃＞復興庁設立の話題が・・・。


●絶句！真実の姿（石巻）（ＹｏｕＴｕｂｅより）

６月の石巻の様子が映っているが、今だってあまり変わっていない風
景だろう。

７日現在での、東日本大震災の犠牲者数は死者１万５８４０人、行方不
明者３５２９人（警察庁まとめ）という。他に、東日本大震災復興
対策本部がまとめた１２月１日現在の避難者が３３万２６９１人。


♪熊谷育美『雲の遥か』　　（ＹｏｕＴｕｂｅより）


４日の地元紙の書評欄に出ていた本を読んでみた。

■石井光太著『遺体』新潮社・１５７５円
　　　　　　　　　　　　（２０１１年１０月２５日発行）

大震災直後、３月１４日に現地に入ったルポライターによる、
釜石市での約３ヶ月に渡る現地ルポをまとめた本だ。

筆者曰く、町そのものが壊滅的被害にあった地区ではなく、町の
機能の半分が津波被害を免れたため、死者・行方不明者千人以上を
出しながらも残った町民が、同じ町内の犠牲者を探し、運び、調べ、
保管し、荼毘に付した・・・自己完結の町であったため、そこの
遺体安置所を中心に２ヵ月半にも及ぶ取材をした、と言う。

新聞・テレビでは報道されない、混乱した災害現場での関係者の
生々しい献身的活動が胸を打つ。


急に設えられた遺体安置所での、腰が引けた市役所職員の対応ぶ
りを見かねて、元葬儀社従業員だった民生委員が責任者を買って
出る。生涯スポーツ担当だった市職員は、慣れない遺体搬送に
悪戦苦闘。町の医院の医師の検視、歯型を記録する歯科医、遺体
捜索の自衛隊員や海上保安官、死者への弔いをするため、市中の
寺院を宗派を超えてまとめるために奔走する僧侶。

生き残った者たちが、犠牲になった人々へ捧げる献身的活動の
数々。閉校になっていた中学校の体育館が遺体安置所になったが、
やがて、続々と増える遺体に体育館は一杯に。棺も足らず、死後
硬直で津波の恐怖の姿勢で固まってしまった遺体を正対に直そうと
する警察官たち。引き取り手もないままにそのまま床に寝かされた
ままの遺体。
遺体の腐敗が進む中、火葬場の地震による故障、修理後も処理能力
を遥かに超える遺体数。市は土葬の準備も進めるが、出来れば、
火葬して成仏させてあげたい・・・・。

行き詰る時間勝負の中、秋田県や青森県の協力申し出があり、搬送
することになるのだが、市に人員的余力はもはやなかった。
消防団に協力を依頼し、連日の秋田県の火葬場への遺体搬送作業が
始まった・・・・。



生き残った者たちの「がんばろう！」も勿論大切だ。

しかし、紙の裏・表程度の違いで死者・行方不明者となってしまった
方々への思いも忘れてはならないと思うのだ。

いつまた大災害が襲うとは限らないし、自分がパンデミックフルーと言
われる細菌爆発の犠牲にならないとも限らない。


自分が検視を受ける医師が罹りつけ医だったり、歯型を記録する歯医者
が行きつけの歯医者になるかも知れない。

死後硬直が始まって、なかなか口が開かない中、アイスピックのような
器具で力任せにこじ開けられた瞬間、飲み込んでいた海水やら
腐りかけの体液を，顔見知りの歯医者さんにかけてしまうかもしれない。


津波で海まで流された遺体は、決まって素っ裸状態という。波に
よって全て脱げてしまうらしい。海を漂った遺体は、魚に喰われ
顔半分が白骨化している方もあったそう。そん時は海上保安官さん
ごめんなさいね・・・・。

釜石市の北、大槌町は港の火災もあって、炭化してしまった遺体ま
であったという。性別さえ不明の状態。誰も好んでそうなるわけで
はありません。

三陸地方では、震災直後から、ウニは刺し身盛り合わせには出て
来ないそうだ。ウニは腐肉を食べる食性だとか。


新聞の書評で、ジャーナリストの大谷昭宏氏も書いているが、定点
観測に近い視点での取材が被災地の悲惨を丹念に追い、「奥の深い
ルポルタージュになっている。」まさしくそう思う。



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　　●日本では放送できない　報道できない　震災の裏側２
　　　　　　　　　　　　　　　　　　（ＹｏｕＴｕｂｅより）　

（「人間失格」という歌が全編に流れ、映像と相まって効果的
　　といえばそうなのだが、歌の広告臭がハナにつく。しかし
　　映像は見て欲しい。）

阪神淡路大震災時の行方不明者が２名、東日本大震災時のそれは
７日現在３５２９人（警察庁調べ）。上記の本によると、収容され
火葬された遺体でも釜石市仙壽院に身元不明の遺骨として保管され
ているのが１００体以上という。